
1951年5月の設立以来、公益事業として関西地域に“電力”を供給する事業を主に展開してきた関西電力。1995年以降、段階的な電気事業法改正により自由化が進められ、2016年4月に電力小売全面自由化となった。これにより電気事業の競争は激化し、販売電力量の減少が続いている状況にある。このような状況の中で、“電気”という枠を越えてお客さまや社会に対して新たな価値を創出し、この価値を活用して新たなサービスやビジネスを展開するために技術研究所が果たすべき役割は大きい。今回は、技術研究所長の菅敏昭氏にお話を伺った。
「これまで」と「これから」の事業で社会に貢献する
関西電力は電気事業の他、ガス、総合エネルギー、情報通信、設備管理、不動産、暮らし事業、ヘルスケア、医療など、関西地域を中心に公共性の高い広範な事業に取り組んでいる。これらの事業は、「まごころと熱意を込めたサービスで、お客さまや社会の“力”になりたい」との想いから事業を拡大してきた結果であり、ブランドステートメント“power with heart”に込められているといえよう。しかし、冒頭述べた通り、電力小売全面自由化は、限られたパイを取り合う状況であり、人口も減少する中にあって事業が先細ることは必定といえる。言うまでもなく、人口減少は単に販売電力量が減少するだけではなく、社会の様々な場面において大きな変化をもたらしている。「将来、電気事業においても、労働人口の減少により、高度成長期に各所に設置された膨大な電力インフラを運転、保守・管理していくための要員の確保が困難になってくるなど、事業基盤への影響も顕在化してくる」と菅所長は言う。特に地方においては、人口流出や超高齢化などにより、産業や生活基盤の崩壊といった社会課題が顕在化している。地域社会とともに発展してきた関西電力には、このような社会課題を解決する事業展開が求められている。
技術研究により課題の解決に挑む
社会課題の解決において、先進技術の社会実装は重要だ。例えば、体を使う重労働、高齢者の補助に対しては、アシストスーツやロボティクスの技術活用が容易に思いつく。人口減少、高齢化にあっては、このような技術が急速に社会に浸透することが期待されるが、コストがあわないなど普及しにくい実状もある。例えば、一次産業、特に農業においては、担い手の不足、それに伴う休耕地の増加などの社会的な課題があり、大手企業が資本や技術をもって参入する例も多いが撤退も珍しくない。だからこそ、さらなる技術研究が必要であり、さらに全く新しい事業モデルを実現できるような革新的な技術やアイデアが求められている。関西電力が地域に愛され、公益事業を核として実現したい将来像は、このような社会課題と密接に関係している。さらに、菅所長からは「安全・安心、快適性、利便性、生産性」というキーワードが何度も繰り返して登場した。これまでの事業の経緯、社会的な位置付けや、これからの時代を考えても、これらのキーワードは、関西電力が新規事業や、そのための技術研究を考える上で不可欠な要素といえよう。
電気と関わりがない技術にこそ注目したい
今回のリバネス研究費関西電力賞では、電気事業はもとより、既に展開している事業分野の拡大に資する、さらには全く新しい事業の創出に資する技術研究を求めている。多様化、高度化する社会ニーズに対応していくためにも、熱意ある研究者らと「皆さんが想い描く将来像の実現」に向けて一緒に取り組みたいと想いを込める。
関西電力の情報通信事業は、電力設備の運用・保全のために構築した通信インフラの有効活用を考えるところから始まったという。関西電力は、これまでの事業活動を通じて、送電線、電柱などの電力インフラ、スマートメーター、光ファイバーなどの通信インフラ、各地に整備された活動拠点には人や車両なども数多く保有する。今回の公募においては、このようなアセットを本来の目的とは別に有効に活用することで新たな事業分野を開拓するような研究テーマにも期待をしている。
考えるだけでワクワクできるような、皆さんが想い描く将来像の実現に向けた技術研究テーマの応募に期待を寄せる。(文・岡崎 敬)