フラスコやビーカーなど、研究室で使用するガラス機器の販売店からスタートして今年で85年目を迎える。池田理化は科学技術の研究に関わる研究者たちのすぐ側に立ち、縁の下の力持ちとして科学技術の発展を長年サポートしてきた。特に近年はバイオ、ライフサイエンスの分野での取扱い製品を充実させ、日々200人以上の営業マンが日本、世界の研究室へ機器、試薬を届けることで実験のサポートを続けている。このように研究界を支え、その発展と共に歩んできた同社が実施するリバネス研究費池田理化賞は、今回で4回目を迎える。その活動に込めた想いを、同社社長の髙橋氏に伺った。
日本の若手研究者は活性が低い?
OECDの報告によれば、日本人の海外留学者数は2004年の8万3千人をピークに2012年には6万人程度まで減っている。その原因としては若者の内向き志向が議論されるなど、諸外国に比べて日本人の若者は元気が無いという論調をよく耳にする。当初はそんな若手の研究者を活性化するためにリバネス研究費池田理化賞を始めた、と語ってくれた髙橋氏は、それは杞憂だったと振り返る。「これまでに池田理化賞を3回実施しましたが、面接審査の過程で現場の若手研究者たちは皆、とにかく熱かった。職業柄海外の研究界もウォッチしていますが、日本には世界トップレベルのポテンシャルと熱量を持つ若手研究者が数多くいますよ」。
また、池田理化賞の面接審査の過程では池田理化の担当者が積極的に応募内容に関するディスカッションを行っている。その中で、現場の若手研究者が旅費の工面に苦労していることを知った髙橋氏は、今回新たに過去の池田理化賞へ申請した研究者に対してトラベルグラントを提供することを決めた。「遠方にいる魅力的な研究者とディスカッションしてより高みを目指したい。海外のラボに飛び込んで自分の研究を知ってもらい、自分の力で留学のチャンスを手にしたい。熱い優秀な若手研究者たちだからこそ、そんな希望や、野望を抱いている。その熱を支援しなければならない、と率直に思ったのです」。自分の、ひいては科学技術のレベルを高めたい、そして自ら道を切り拓きたいという若手研究者たちの強い想いが、老舗の理化学機器商社を動かしたのだ。
若手研究者に期待すること
2006年に京都大学の山中伸弥教授が世界で初めて動物細胞で初期化を行って早10年。世界は再生医療の実現に向けて加速度を増しながら激動の時代に突入している。2014年には薬事法が改正され、日本は世界で最も再生医療を産業化しやすい国として注目を集めるようになった。その翌年にはiPS細胞ベンチャーの代名詞とも言えるヘリオス社が株式を上場するなど、日本国内でも政府や産業界の動きが活発になっている。当然ながら、研究界でも世界との鍔迫り合いが続いている。2014年には理化学研究所の高橋政代氏が世界に先駆けてiPS細胞を用いた臨床試験を実施した。研究の加速が必要なのは再生医療等製品だけではない。培地、輸送方法、品質管理や自動培養装置など、関連するテーマには枚挙に暇がない。この分野の研究者の数も飛躍的に増えている。そんな中、池田理化賞では再生医療の周辺基盤技術および応用研究に関する分野の若手研究者を支援している。研究者の支援をしているからこそ、競争の激しさを肌身に沁みて感じていると髙橋氏は語る。「研究の世界は比較的実績の少ない若手が活躍し難い面があると感じています。若手がある程度の自由度をもって研究できる環境があれば、競争の激しい分野に新風が吹き込まれ、研究の層が厚くなると信じています」。若手研究者が羽ばたくきっかけとできる研究費。そんな想いが池田理化賞には込められている。
いつでもそばにいる池田理化だからできる、研究の活性化
池田理化賞では採択者が確定した後、採択出来なかった申請者も交えて、著名な研究者の基調講演などを含むアフターイベントを実施している。著名な招聘講演者を交え、普段は知り合うことのない研究者同士が意見を交換しあうこのイベントは大変盛り上がり、参加者からも好評であった。髙橋氏が次回のアフターイベントで企画しているのは、チョークトークだという。申請者が描くビッグピクチャーに対し、第一線で活躍する研究者から質問の集中砲火が浴びせられる。その質疑応答を通じて自分の研究を客観的に見ることができるという。「池田理化賞は申請者の成長にも繋がる。そんな機会になればと考えています。今後も継続して若手研究者の登竜門としたいですね」。
更に、2015年11月からはリバネス、ジー・サーチと3社合同でL-RAD※事業を開始した。「現在の科研費は国が定めた研究方針に沿ったテーマが選ばれますが、研究者の好奇心を形にするという方向性も重要ではないかと思っています。リバネスさんからL-RADの草案を聞いて、これだ!と思いました」。髙橋氏が自ら企業への提案を行っており、研究シーズとの出会いを求めている多くの企業から高評価を得ているという。「多くの研究者と企業を巻き込んで、日本の科学技術の礎になり得る研究を様々な角度から掘り起こして支援していきたいですね」。池田理化は理化学機器商社の枠から飛び出し、科学技術全体の活性化に取り組み始めている。“いつでもそばに”。実現することは簡単ではないが、髙橋氏の目は、本気でそれを見据えている。(文・坂本真一郎)
※L-RAD/正式名:「L−RAD」リバネス・池田 研究開発促進システム(Powered by COLABORY)
企業と大学などの研究者による産学連携、共同研究などオープンイノベーションを促進するソリューション。各種競争的資金に採択されなかった申請書など、研究者が持つ未活用アイデアに、産業視点から新しい光を当てようという取り組み。