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人を模した義手で、 チャンスを掴み取れ

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株式会社メルティンMMI 取締役執行役員

粕谷 昌宏

電動義手競技と機能的電気刺激(FES)自転車レースに出場するメルティンMMIは、電気通信大学の横井研究室と、そこから生まれたベンチャー企業である株式会社メルティンMMIによるジョイントチームだ。横井研で博士号を取得し、同社取締役執行役員を務め、今大会出場に際してはチームリーダー兼開発者となった粕谷昌宏氏に、研究開発の背景とサイバスロンへの思いを伺った。

研究の目標が、

「もともと研究室で進めていたテーマが、サイバスロンとの親和性が高かったのです。本当はブレイン・コンピューター・インターフェース競技にも出たかったけど、手が回らないので諦めました」。横井浩史教授が研究費を獲得してきた課題を見てみると、“個性適応機能を有する筋電義手の開発と一般流通化”、“入力型BMI電気刺激を用いた運動と感覚の再生法の研究開発”、“筋疲労・筋電位導関数の導出と機能回復を促す機能的電気刺激”など、まさにぴったりの文言が並んでいる。2000年頃までは自律的知能をテーマとしていたところに、義手利用者から開発のオファーが来たことで研究が始まったという。「最初から技術開発でなく実用化を目標においていた。そこがサイバスロンのコンセプトと合致していたのだと思います」。2014年に今大会を知った当時は、まだ研究室内での開発の域を出ていない状況だったが、ジョイントでのチーム申請を決め、開発を進めた。

た  製品化への道筋

筋電義手競技は、義手をつけた競技者が、棚に置かれた物を掴んでドアの向こうの机に移動する、洗濯バサミで布を干すなど、計6種類の種目の達成度合いによる点数を競うものだ。FES自転車レースは、下肢完全麻痺のパイロットの脚に電気刺激を与え、750mのコースを自転車で競争する。これら2競技への出場を決めたことで、開発の道筋と期限が具体化されたことは会社にとってプラスだったと粕谷氏は話す。そもそも出場には、国際電気標準会議(IEC)が定めた安全規格をクリアしなくてはならない。それは製品化開発を進めるにあたって避けて通れない道だった。さらに、大会に勝てる技術を開発しようとする過程で最終製品に求められる機能水準に大きく近づき、同時に認知度を向上させることもできる。

同じゴールを目指し、

2015年7月に開催されたリハーサルイベントに参加し、気づいたことが2つある。ひとつは、この大会の出場者たちは“金メダルを目指した勝負”よりも、障がい者の生活を豊かにするという同じゴールを目指しているということだ。そのため、他国のチームとも技術に関する情報交換を行い、互いに高め合うコミュニケーションが生まれているという。もうひとつは、自分たちのオリジナリティの高さだ。特に筋電義手競技においては、他の出場チームの多くがモーターが内蔵された既製品の義手を使い、制御技術を開発していた。それに対してメルティンMMIは、人間と同じような骨格と腱を模したワイヤーを備え、安価・軽量ながら柔らかく人間らしい動きをするという新しいコンセプトに沿った義手が実現できている。「現状では値段が高い、重いといった理由で筋電義手を使わない人がかなりの割合でいます。その人たちに、私たちの義手の設計思想を知って、使ってみていただきたいですね」。そのためにも大会で好成績を収めたい、と粕谷氏は話す。

ワイヤーで駆動する電動義手。見た目もさることながら、動作も驚くほど滑らかだ。ぜひメルティンMMIのWebサイト(http://meltin.jp/ )で確認してほしい。
ワイヤーで駆動する電動義手。見た目もさることながら、動作も驚くほど滑らかだ。ぜひメルティンMMIのWebサイト(http://meltin.jp/ )で確認してほしい。
世界の義手の  基盤技

さらに彼らにはもうひとつ、狙いがあるという。メルティンMMIが持つ技術の特徴は軽量な義手側だけでなく、筋電情報の取得と解析アルゴリズムにもある。他の技術が3パターン程度の筋電識別しかできないのに対し、“握り”、“開き”、“親指を曲げる”、“小指・薬指を曲げる”、“手首を時計回りに回す”、“手首を反時計回りに回す”、“手首を曲げる”、“手首をそらす”、“つまむ”の9種類の生体信号を基本とし、最大11パターンの識別が可能なのだ。さらに機械学習により使用者の筋電位を解析し、個人に適応した操作を簡単に設定できる。近日中にこのアルゴリズムを含む筋電測定バンドを商品化する予定とのことだ。「第2回サイバスロンでは、どのチームも解析部分はメルティンのアルゴリズムを採用していた、となると面白いですね」。その野心的な目標を達成するためにも、今大会でチャンスを掴みとって欲しい。(文・西山哲史)

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