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自然になじむ義足で、高みを目指せ

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株式会社Xiborg 代表取締役
遠藤

電動義足レースに出場する株式会社Xiborgの代表取締役を務める遠藤謙氏は、マサチューセッツ工科大学で下腿義足の開発に従事し、2012年に博士号を取得した。現在は、ソニーコンピュータサイエンス研究所の研究員として、ロボット技術を用いた身Th能力の拡張に関する研究を続けながら、Xiborgとしての活動を精力的に進めている。

使技術開発

Xiborg が手がけるのは、動力付き膝継手や足部をコアとした義足の開発だ。一般的に義足は動力をもっていない足部や膝継手などのモジュールが組み合わさってできている。Xiborg の独自技術はコンパクトにまとまった動力を備えた膝モジュールだ。既存の海外義足製品は、膝の機能を実現するために部品長が25cm以上も必要で、ふくらはぎや足首の機能部分と  重なって使い勝手が悪い。この課題に対し、直径約15cmの膝モジュールにセンサーやギア、モーターなどを詰め込み、すべての機能を集約した。軽量化と小型化を実現しつつ、いかに日常生活に必要とされるパワーを生み出すかが、より使いやすい義足開発の次の焦点だ。

2015年7月に開催されたサイバスロンのリハーサルイベントでは構想の約 30%程度しか実現しておらず、この1年間、急ピッチで開発を進めてきた。今大会への出場を決めたのは、大会コンセプトに共感した部分が大きい。「研究されている技術のうち、実際に世の中に出てくるのはほんの一握りです」。開発中の技術を少しでも製品レベルに近づけ、社会への普及の後押しをしたいという大会の姿勢は遠藤氏の研究開発にかける想いと重なるものがあった。

常に溶けコンセプト

Xiborg では、パラリンピック向けの競技用義足の開発も行っているが、開発の際の制約条件が違うという。パラリンピックでは、より速く走るための動きとそれを実現する機能性が重視される。一方で、サイバスロンで求められるのは、あくまで自然に日常を送るための動き。義足を装着したパイロットが自然な姿勢で歩き、階段を登って、降りる。レース設計からも大  会の意図が汲み取れる。単なる競技会にとどまらず、社会実装をゴールに据えた製品の登竜門であるからこそ、この自然さは極めて重要だ。「例えば眼鏡は視力を補うことができるテクノロジーの産物ですが、す  でに社会に馴染んでいて、いちいち注目を集めないですよね。さらには、ファッション性やサングラスのような機能性など、プラスアルファの選択肢も提示されている。同様に、ユーザーの日々の生活に溶け込むよ  うな義足を目指しています」。

今回のレース内の障害物で一番の課題は、物  を持った状態での階段の登り降りだそうだ。「全身のバランスを取りながら、自身を支えるのが難しい」と、プロトタイプができるたびにユーザーに使用感を確認し、細かなフィードバックをかけながら調整を進めている。大会までには、要求されるすべての仕様  を実装できそうだと話す遠藤氏。本番が今から楽しみだ。

テクノロジーは何を

日常の中に自然になじむ義足を社会に実装するために、まず彼らが目指すのは“F1 レース”のような様々な分野の専門家で構成されたチームで最高峰の技術を極めることだ。遠藤氏の心には、MIT での指導教官だったヒュー・ハー教授の「身体に障がいがあるのではない。テクノロジーの方に障がいがあるだけだ」という言葉が深く刺さっている。彼自身が義足のユー  ザーでもあり、その言葉には他の誰にも生めない説得力があった。足りない身体機能をテクノロジーによって獲得できれば、“できないこと”は少しずつ無くなっていく。ハンディキャップによる区別はなくなり、不公平さの議論そのものが無意味になってくる。「それが今できていないのはテクノロジーが未熟だからです」。テクノロジーの進歩によって、世界はきっと変えられる。だがそれは言葉だけではなく、実践によって証明する必要がある。世の中に訴えかけられるだけの実績を得るためにも、まずは世界トップレベルの技術を世に示す。ftイボーグ技術で世界をもっとわくわくするものにしていきたいと遠藤氏は未来を語ってくれた。(文・中嶋香織)

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