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第38回ディープラーニング賞採択者「行動観察ツールを武器に、アリ社会の秩序を追求する」藤岡 春菜さん

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[第3回リバネス研究費ディープラーニング賞]採択者インタビュー 
【採択者】
藤岡 春菜 氏(東京大学大学院 総合文化研究科 博士後期課程1年)
【採択テーマ】
アリの社会における順位が生み出す秩序の解明

【研究費情報】
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社会性昆虫であるハチやアリは、巣内で各個体が仕事を分担する“分業”を行っている。中でもトゲオオハリアリは、個体に順位が存在し、ヒエラルキー構造の社会を持つ。この個体の順位は、順位に応じた仕事の割り振りなど、無駄な争いを避けて円滑にコミュニティを維持することに寄与すると考えられている。今回、ディープラーニング賞を受賞した藤岡氏は、トゲオオハリアリを題材に、独自のアプローチで動物行動学の研究に取り組んでいる。

働きアリの順位行動を追え

 トゲオオハリアリの順位行動は、羽化時に女王へ“挑戦”を行うことから始まる。既存女王に勝てば、自らは新女王の地位を獲得するが、負ければ働きアリになる。その後、女王へ挑戦を挑むことはできないが、働きアリ同士での順位行動は頻繁に起こるという。しかし、一度決まった働きアリの個体順位がどの程度の期間維持されるのか、新人働きアリが加わったときに順位がどのように変動するのかなど未だ不明な点も多い。

 この順位行動をより詳細に調べるため、藤岡氏らは巣内でそれぞれ活動する数百個体のアリを二次元バーコードタグを用いて個体識別を行い、自動で長期間のトラッキングが可能なシステムを開発している。

トラッキングで実現した長時間観察

 昆虫を対象にトラッキングを用いた研究は国内ではまだ取り組みが少ない。藤岡氏らはすでに開発初期段階のトラッキングシステムを用いて、これまで難しかった巣内の全個体の行動を長時間観察し、個体間の順位や仕事の役割、活動量などを明らかにしてきている。

 例えば、育児を担当する働きアリは、どうやら未成熟個体の発育段階に応じて活動時間を柔軟に変化させているらしい。アリは基本的には昼に働き、夜に休むという活動パターンを示すが、献身的な世話が必要な卵や幼虫のためには働きアリが常時的に働く姿が確認できた。一方繭に包まれて世話が不要となる蛹のフェーズでは、働きアリの活動時間も元に戻った。「動物行動の理解を深める上で、対象をじっくり観察することは基本であり、本質です」と話す藤岡氏。その一方で、24時間連続で個体の活動を追尾し続ける必要があるこの事例のように、目視観察だけでは困難な場合もあるのが事実だ。優れたツールをうまく活用することで、これまで見出されずにいた事実が明らかになるかもしれない。

個体間のコミュニケーションを捉える

 藤岡氏は今後、蓄積したトラッキング画像データを機械学習させることで、アリ個体間の噛み付く・引っ張るといった順位行動特有の相互作用を画像認識によって検出できるツールの開発を進める予定だ。バーコードタグを利用したトラッキングシステムと合わせれば、コロニー内の働きアリの時空間情報を長期的に観察し、巣内のネットワークを紐解くことができるだろう。藤岡氏は「最終的には、順位行動や順位付けのしくみがアリ社会の安定性にどのように寄与するかを検証したいと思っています」と研究の展望を語ってくれた。この技術が確立されれば、アリの行動解析にとどまらず、あらゆる小型動物種の移動・行動をより効率的に解析することができるだろう。近い将来、動物行動の理解を促す強力なツールが生まれてくるに違いない。

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