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自分が成長できる場所。それが企業だった 小野 真吾

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アカデミアのポストの誘いがなかったわけではない。それでも企業への就職を決めたのは「自分と違うスキルをもった人と働きたい、今までと違うことをしてみたい」という気持ちがあったからだ。ヤフー株式会社で部長として組織運営にも携わる小野真吾さんのキャリア選択には「自分が成長できる場所はどこか」という軸があった。

今の自分に「ないものがある」ところへ

大学院では機械学習や自然言語処理などデータマイニングの研究を行っていた。その中でプロトタイプを開発することがあり、それが面白いと感じたことがきっかけで、「研究も、開発もできるところで仕事をしてみたい」と企業への就職を考えるようになった。さらに、「研究室には、どうしても得意なことが似通った人が集まってきます。そういう環境ではなくて、自分とは違うスキルをもった人と働きたいと思ったんです」と話す。アカデミアだと、場所を移ったとしてもいま自分がやっている領域と近いところでしか研究できないだろう、ということが小野さんには見えていた。自分の成長のためには環境をガラッと変えることが必要、ということを感じていたのだ。

ヤフーという会社の名前はもちろん知っていた。就職の際に、改めて調べてみたところ、自分の研究で、当時ヤフーが提供していた検索API※1を使っていたことに気づいた。「その中身はどうなっているのか—もしかしたら自分の研究内容と関連する技術が一部使われているかもしれない。それなら、自分の強みを活かすことができそうだと感じました」。自分が研究していたことがいつか活かせればいい。そう思い、小野さんはヤフーに入社した。

場所が変わっても、研究のエッセンスは変わらない

入社前から、「ページにアクセスしてくるユーザーにいち早くウェブページを表示することが必要だから、そのためにいろいろな工夫がされている」という話は聞いていた。自分がつくったものの向こう側に「相手がいる」という感覚は、アカデミアの研究ではなかなか得られなかっただろう。「そういったところを見てみたかった」と小野さんは話す。

業務では、誰にどんな広告を出したら、どのくらいクリックされるのかを予測するプロジェクトを経験。世界各国の論文をベースに最先端の技術をプロダクトにして提供する。それによって研究成果を世の中で実際に使ってもらえることが魅力だと小野さんは言う。

何をやったらうまくいくかわからないことを手探りでやってみる、という場面にも多く遭遇する。「やれること」を挙げていけば、数万通りもあるかもしれない。しかし、その中から、成功する可能性が高そうなものを早く見つけて進んでいかなければ、ビジネスではすぐに他社に負けてしまう。課題が何かを見つけること、仮説を立てて実行してみること、正しいデータを取るために何ができるかあれこれ考えること—そういった研究の「エッセンス」が、ビジネスやサービス開発の中でも活きていると小野さんは感じている。

メンバーが成長できる場をつくること、それが自分の成長

2014年からサイエンス本部の部長となった小野さんの仕事には、これまでと同様にサービス開発のプロジェクトに参加して行う業務のほか、メンバーがのびのび仕事をして成長できる場、環境を整えることがある。「そういう仕事をやってみたいな、という気持ちはリーダーになった2012年より前からありました」。自分よりも、機械学習や自然言語処理の研究に長けたメンバーがいる。自分がバリバリやるよりも、メンバーを助けるような裏方に回ってみたい。そう思っていたときに、ちょうど「リーダーをやらないか」という声がかかったのだった。

仕事をしていく中で、小野さんは、「隣の人が何をしているのかわからない」ということが研究室だけでなく、企業でも起こりうることだと気づいた。そこで、他部門の人に向けて、自分たちがどんなことをしているのかを知ってもらうためのポスター発表会を始めた。「アカデミアでは自分の世界に閉じていても何とかなるかもしれませんが、企業では難しいのです」。なぜならば、最先端の研究開発をしていても、それが他の部署が抱える問題を対処するものだと理解してもらえなければ、「僕たち最先端技術を使ってこんなものを作った、ちょっと使ってみてよ」と言われても受け入れてもらえないのだ。他人との交流を通じてそういった状況を打破したい、という思いが小野さんにはある。「場を作るのが好き」な小野さんがつくった、未来への仕掛けのひとつだ。

企業で生まれた知をもとに、研究の世界を牽引したい

データの世界は、規模が大きければ大きいほど有利だ。集まるデータが大きくなると、データ集計すら大変になるように技術的な課題も大きくなる。その分技術が発展しやすくなる。グローバルな企業、人口の多い国の企業は自ずとビッグデータを手にするようになるが、ヤフーの場合は日本のみを対象にしているため、規模の面ではそういった企業には到底勝てない。しかし、ヤフーは「1社で検索やニュース、地図、ショッピングなど100以上のサービスを提供している」という強みがある。それらを通じて集まった様々な種類のデータから新しい知識を生み出せるのは、世界でも例のないこと。そういうところで戦えたらと思います」。

会社にいる以上、会社が成長して、自分ができそうなことは何でもやるという気概はある。さらに、「様々な種類のデータを持っていることがヤフーの強みなので、そこを起点に日本のウェブやデータマイニングの研究をアカデミアも巻き込んで引っ張っていきたい」。これが小野さんの、次なる「成長」の舞台になる。

(文 磯貝 里子)

※1 API(Application Programming Interface):あるコンピュータプログラム(ソフトウェア)の機能や管理するデータなどを、外部の他のプログラムから呼び出して利用するための手順やデータ形式などを定めた規約のこと。(出典:IT用語辞典 e-Words)

|小野 真吾さん プロフィール|

2009年3月、東京大学大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻博士課程修了。同年4月、ヤフーに入社。ウェブ検索関連のモジュールの開発や広告配信のロジック開発のプロジェクトなどに携わる。2012年7月よりサイエンス部リーダーに就任、2014年4月より同部長として部門運営にも力を注いでいる。博士(情報理工学)。

|ヤフー株式会社|

1996年設立。月間630億以上のPV(ページ・ビュー)を誇る日本最大級のポータルサイト「Yahoo! JAPAN」を運営。「Yahoo!検索」や「Yahoo!ニュース」、「Yahoo!ショッピング」「ヤフオク!」など100以上のサービスを提供。2015年10月より、博士課程の修了者向けの採用枠を新設し、博士号取得者を積極的に採用している。

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