イギリスと国内でのポスドクを経て、34歳で次世代シーケンサーのリーディングカンパニーである米国イルミナ社の日本法人に入社した小林孝史氏に、研究をサポートする側として活躍する現在の業務内容とその醍醐味をうかがった。
ロジカルなキャリア選択
7年間という比較的長期間のポスドク期間を経て、アカデミアでのキャリアもしっかり積んだ小林氏だが、企業に移ることにハードルはなかったのか。「大事なことは、自分の中で最終ゴールをきちんと定めてから、行動すること」とキャリアパスを振り返る。企業で働くのであれば、将来的にはマネジメント側に立って活躍したいと考えていた小林氏にとっては、キャリアチェンジの時期は合理的だった。入社後まず携わったテクニカルサポートでは、ユーザーが求めている情報を正確かつリアルタイムに提供することが求められた。ユーザーの満足度を高めるには、最短プロセスで原因をクリアにし、解決する力が要る。アカデミアでの研究で培った論理構築のしくみは、ビジネスの現場でも発揮されていると実感することが多いという。相手の疑問にロジカルに答えて、コミュニケーションを深めていくプロセスはやりがいを感じる瞬間だ。
アメリカでの経験
企業に移ってからもキャリアの転換点はあったのだろうか。日本の社員で初めてアメリカのイルミナ本社に駐在して、プロダクトクオリティーに関わる業務に従事できたことは貴重な経験だったと小林氏は話す。「日本では本社で開発されトップダウンで降りてきた製品の技術サポートをしていたわけですが、それが本社でどんな会議を経て、どんなスタッフが関わって、どのように開発されていくかを、実際に見て吸収することができたのは自分にとって大きな収穫でしたね」。プロジェクトのイニシアチブを持つごく少数のスタッフとコミュニケーションを取れたことや尊敬できる上司に出会えたことはモチベーションを高めることにもつながった。
意志をもって困難を乗り越える
現在は、日本でフィールドアプリケーションの業務に従事している。研究者と対面しながら製品用途を広げていくことが使命だ。相手が何を考えて、何を求めているのか。自分の回答がユーザーの求めている100%をクリアできているかを常に考えるようにしている。「博士を取っている人であれば、誰でも学位を取得するプロセスで、自分がプロジェクトのリーダーとなって研究を完遂させた経験をしていると思います。その時に身につけた突破力が活かされています」。アメリカで助けてくれた仲間たちに、活躍して恩返ししたいと語る小林氏は、これからも生命科学の最先端を技術の面から支え続けていく。(文・中嶋香織)